ー親愛―
意を決して 冷たい岩の隙間をくぐる
そこには 膝を抱えてしゃがみ込む刺青男の姿
? 寝ているの?
ただ 波の音だけが静かにリズムを刻んでいた
かえって、その静寂が 居心地を悪くする
“あ、あの~。風邪ひきますよ~”
普段 私から誰かに声をかけるなんて 滅多にない
だけどこのまま ここで寝てたら 潮が満ちたら 溺れてしまう
声をかけずに いられなかった
“ん?…ああ。”
不抜けた声を出し 顔をあげる
…寝ていたんじゃ、ない
少し顔色が悪い
“大丈夫ですか?”
“ああ。”
“ここ。下手したら海の中ですよ”
“ああ。”
ああ。しか言わない その様子に 戸惑いを感じずにはいられなかった