ー親愛―




“本当に大丈夫ですか?”




“ああ。なんとか生きてる…”




そう言いながら立ち上がろうとするけど ふらついている




“手、貸しましょうか?”




そう全部いい終える間に 私の腕は刺青男の大きな手に掴まれていた




その手には血の気がなく まるで死人の手のように冷たく、なんとも言えない湿り気を帯びていた




後は何もかも全部 頭で考える前に身体が勝手に動いていた




刺青男の腕を私の首にかけ、背中に手を回して歩いた




私と刺青男は 肩を並べるようにして歩いた




見た目よりも細い その身体に…だけど女の身体とはまるで造りの違う その身体に新ためて男なんだと 実感した




少しよろけて 顔が触れそうなぐらい間近になる




大きな鼻 短いまつ毛 茶色の瞳 少し伸びた髭




そういったモノに 心臓の核の部分が締め付けられた




ようやく車に着いた時には 顔色も良くなっていた




“わりぃな。あんたにここまでさせちゃって…”




“いえ。平気です”



本当は全然平気なんかじゃなかった




平静を装うのに 必死だった




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