ー親愛―




寒くも 暑くもない季節




畑や田んぼ その辺りの川原には ススキの穂が揺れ 真っ赤な太陽が沈む




私は老人ホームの会社の説明会を聞き終え 帰ろうと駐車場に向かった




私の性格上 会ってすぐの人と友達になれる そんな社交的な人間じゃない為 何事もいつも始めの方か、終りの方を1人で歩くタイプだった




その日も 説明会を終えて 新しく知り合った人とこの施設について 楽しげに話しながら帰って行く群から 離れ 後をついて行っていた




みんなはそれぞれに 車に乗り込み帰って行くのを 私は玄関から見送っていた




見送った後 一息ついて 自分の車へと だるくて重い足をひこずるように向かった




駐車場には まだ数台の車が残っていた




その残った車の影から 1人男の人が辺りをキョロキョロと見回す




…車上荒らし…?




そう思えるぐらい 不自然な動き




むこうは 私に気付いていない




…どうするんだろ




私は 建物の影に素早く隠れて その人の行動を観察していた




いつでも警察に電話出来るように 右手に携帯電話を持って




その人は 周囲に人気がないのを確認すると おもむろに半袖のTシャツを脱ぎ出した




私は ゴクッと唾を飲んだ




だって…




それは 私が思ってた行動とはまるで違うし なにより…




その人の背中には






十字架を背負ったキリストの刺青が 施されていたからだ…





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