ー親愛―




その日は 入所の利用者30人と話しをして、大した仕事もせずに一日が終った




夕方 仕事が終り、タイムカードを打ちに事務所に向かう途中 渡り廊下を通る




桜の樹の下で 三上さんと多田慎二が煙草を吸っていた




2人でケラケラと子どもみたいに笑い合う




私は その場から離れられなかった。




《女をSEXの相手としか見れない》




あの言葉とは似ても似つかない笑顔




《十字架を背負ったキリスト》




どれもが全部 それぞれ違う人の事のように思えた






“多田慎二の事、気になる?…それとも、三上かな?”




後ろからゆっくりと 足音ひとつ立てずにやって来たのは、施設長だった




“あっ。いえ…。あんまりにも、桜が綺麗だから。”




思わず嘘をついてしまった




“多田慎二。アイツは、自分をなかなか人に見せないから、誤解されやすいんだけど。イイ奴だから。………それと、香坂さんをここに絶対欲しいと、言ったのは、アイツだから。”




そう言って 後ろ手に手を振り“お疲れ”と言い、去っていった




心の中 見透かされみたいで 気恥ずかしかった




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