ー親愛―




それは とても温かく心地の良い昼下がり




みんなの喫煙所となっている 桜の樹の下



あまりの陽気に誘われて 私は地べたに座って紙パックの野菜ジュースにストローを刺す




天を仰ぐように顔を上げ 太陽の光の眩しさにおもわず目を閉じる




“気持ちイイ”




あまりにも気持ちイイから 背伸びをする



“お疲れさん”




施設長が煙草を挟んだ右手を上げて 私の方に向かってやって来た




“お疲れ様です”




あまりにも無邪気に笑う施設長の顔が なんだか多田主任と被る




“香坂さん。多田が言ってたとおり、君って本当に面白い娘だね。まるで、万華鏡みたいだね”




《万華鏡》




あんなに綺麗で 変化をもたらしてくれる物に 私は例えられた事が嬉しい反面 意外だった




“香坂さんが、ここに来てから 多田が変わったよ。それに、入所自体もなんだか明るくなったし…。この前は、楽しかったよ。”



この前…?! 新人歓迎会!




“施設長!この前の事、教えて下さい!!”




“どうしたの?”




“私…あの日の事、何も覚えてないんです…”




ハハハッ “えっ?そうなん?”


いつになくラフな話し方に 私はここぞとばかりにあの日の事と多田主任について聞いた



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