ー親愛―
入浴介助を終えて 私と三上さんは浴室の隣りの脱衣場のパイプ椅子に座り 入浴介助で熱くなった身体を冷ますように、冷たいミネラルウォーターを飲んでいた
特にこれといった話しもしないまま 時間だけが過ぎていく
話しのきっかけを出したのは 意外にも三上さんだった
“香坂さん…? 香坂さんには好きな人とかいるの?ほら、俺達いちお付き合ってるって事になってるからさ。”
“………いないって言ったら嘘になるかもしれないけど、好きな人っていうより気になる人はいますよ”
“そうなんだ……。その人って、どんな人?”
“う~ん。そうだな…。たぶん、きっと…淋しがり屋。とても強そうに見えるけど、独りになってしまったらきっと寂し過ぎて死んじゃうんじゃないかと、この人のそばに居てあげなきゃいけない気がするんです。”
三上さんと話してるのに私の前には多田主任がいる気がした
まるで、多田主任に告白するみたいに。
私… 多田主任の事、こんな風に想ってたんだ…。
下を向いたまま 私の話を聞いていた三上さんが 顔を上げる
“ふーん。ねぇ、香坂さん?”
私を見つめる瞳は いつもの優しい瞳じゃなかった
吸い込まれそうなぐらい真っ黒で 私が何かを否定してしまえば 粉々に崩れてなくなりそうな… だけど とても強くて大人の男を思わせる瞳