拝啓 隣にいない君へ(短編)
 ――カップを皿に戻した音が、やけに大きく響いた気がした。それは何かを訴えるように、耳に残る。京哉はまだ続けるようだ。



「あんな良い子、そうそう居ないよ。永時、今すぐ謝ってこい。直接がダメなら電話でも良い。復縁は難しいかもしれないけど、このままで居る方がもっとキツいだろ?」

「無理だよ……あいつ、携帯変えたみたいだし。嫌われたもんだよね……」

「自業自得だ。俺が刹那ちゃんでもそうするぞ。」



 京哉の鋭い氷柱のような一言が、胸に刺さる。僕は本当に最低のことをした。できることなら、会って話したい。この思いを伝えたい。だけど、彼女に避けられているのは明らかだから。友達に戻れるのかどうかすらも、もはや絶望的だ。

 体が凄く重たい。孤独に耐えられなくて、嫌でも君のことを考えてしまう。きっと君は、僕のことを一秒でも早く忘れたい筈だ。だから僕も、忘れなきゃいけないのに。

 そう思っていたら、京哉に「おい」と声をかけられた。顔を上げたら――奴は今までの剣幕が嘘だったかのように穏やかな顔をして、僕を見つめたまま微笑を浮かべていた。
< 5 / 10 >

この作品をシェア

pagetop