拝啓 隣にいない君へ(短編)
「お前には無理だよ。お前には、刹那ちゃんを忘れるなんてできっこない。」



 ごもっともな意見だ。現に今も、あの子のことが頭をずっとループしている。再び嘆息してしまいそうになった時、京哉が優しい表情のまま言う。



「だから、あの子を忘れるな。ずっと考えてろ。そしたら、次に会えた時に言わなきゃいけないことくらい分かるだろ?もう二度と、思ってもないこと言うんじゃないぞ。」



 ――不覚にも、泣きそうになった。何でこいつは、正しいことを言うんだ。何で僕を見透かしたようなことを言うんだ。何で全部、分かってるんだよ。



「……お前、凄いな。」

「何が?」

「僕のこと、完全に把握してるように聞こえたから。」



 そう口にしたら、「それはありえないだろ」と京哉。奴に言われて、僕は初めて大切なことに気が付いた。

 言わなくても分かり合える瞬間なんて、ほぼ皆無に等しい。だから人は、言葉を持ったのだ。世の中には、言わなければ分からないことだらけ。だから人は本を書き、歌を唄う。自らの思いを文字に、言葉にするのだ、と。
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