夜獣2-Paradise Lost-
「耕一さんに生きてもらうための、処置を施します」

体を許したからなのか、神崎から耕一へと呼び方を変えていた。

「余計なことは、しないでくれ」

「私はお節介焼きなんです」

紅目の祖先の笑みは冷たさを感じる。

今しかない。

逃せば、二度と夕子の元にいけない。

臆病者、卑怯者の愚者が自分で死ねるわけがない。

「止めてくれ」

止めさせようと腕を伸ばすが、体が動かない。

雪坂は静かに首を左右に振り、一度だけこちらを見る。

「新たな道が開くことを祈ります」

雪坂は僕の唇に自分の唇をあてがっていた。

唖然とする僕の唇を舌で開くと、唾液を送り込む。

「く!」

驚きのあまり、飲み込んでしまった。

静かに雪坂は唇を離したが、表情は至って冷たい。

「何をした?」

今の行為が無意味だとは思えない。

体の中で何が起こっているというのか。

「邪法ですが、条件が揃ってましたので私の組織を唾液に含ませて耕一さんに送り込んで、力の栓を解放しました」

「お前ら!何やってる!」

教師が教室の扉を開けて、僕たちを見る。

生徒達も窓を開けて、興味本位で見ているようだ。

生徒達の噂話も聞こえてくる。

長居しすぎたのかもしれない。

「くそ」

捕まるわけにはいかず、黒目に戻った雪坂を置いて逃げるように立ち去った。
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