夜獣2-Paradise Lost-
「お父さん?」

公園の入り口には、女児がいた。

先ほどの家で見かけた女児だ。

追いかけてきたのか。

娘の姿を見た甘粕は僕を刺すのを躊躇った。

それが、隙だったんだろう。

痛くて言葉が出ない。

しかし、動くしかない。

動かなければ、死ぬ。

死ねば復讐は出来ない。

目前の敵は、『奴』を殺す邪魔をする。

やる事は決まっていた。

涙や鼻水、涎をたらしながら、醜い顔で這い上がる。

一撃でも、拳を打ち込むために腕を前に出す。

甘粕は気づいていたらしく、刃によって片腕が斬り飛ばされる。

痛さなんて、どうでも良かった。

死ななければいい。

甘粕は片腕を落とす事は出来ず、僕の拳は胸に届いている。

『あなたは、自身の力を信じていますか?』

渚の言葉が頭を駆け巡る。

拳は当たらなければ、意味を成さない。

物理攻撃として、当たり前の事だ。

今まで鍛えてきた腕の速度は、甘粕が斬り落とそうとするよりも速い。

拳は、届いている。

そして、能力を発動させた。

当然のように、空気爆弾は爆ぜた。

拳の先にある、空気を持った心臓で。

「ゴボ」

内臓がボロボロになった甘粕は、口から血を噴出した。
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