夜獣2-Paradise Lost-
最終章:「普通」
耳障りな蝉声。

清涼を思わせる風鈴。

肌を焼く熱風。

全てが、月日の流れを感じさせていた。

ベッドから背を起こすと、いつもの部屋の風景だ。

「眠っていた、のか?」

傷の痛みはない。

斬られた腕は元通りになっている。

指先を動かそうとすれば、指示通りに動いた。

本当に斬られたのかと思いたくなるほどに、縫合の後が残っていない。

「終わったか」

僕は『奴』を殺す前に、実行してしまった。

人を殺したのだ。

どんな理由であれ、『奴』と同じ世界に足を踏み入れた。

何の感想もない。

感情も湧かない。

ただ、事実があるだけだった。

自分が望んだ事なのだから、言い訳するつもりも無い。

「僕は、強くなったのか?」

手に入れたのは人殺しの技。

戦いの中で生み出された必殺。

相手の体内にある空気を利用して崩壊させる。

爆発のタイミングをずらした事によって、可能にした。

しかし、満足してはならない。

たった今、一撃で相手を殺す技を手に入れただけだ。

『奴』も、新しい世界に進んでいる可能性がある。
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