夜獣2-Paradise Lost-
「耕一さん?」

扉から顔を覗かせたのは、涼しさを連想させる青いワンピース姿の渚だ。

「起きたんですね」

蕾が花を咲かせたように、浮かない表情が笑顔に変わった。

「どれくらい、経った?」

「二ヶ月です」

端的に答えてはいるが、先ほどの顔の変わりようも頷ける。

治癒の時間を考えるに、身体に及ぼした傷は相当な物だったか。

「余計な時間を食ったか」

「甘粕史郎との戦いで負った腕の切断、全身の神経への負担を考えれば、妥当な時間です」

「そうか」

僕にとって、治れば再び闘えるという事。

誰が治療を施したかなど聞く必要も無い。

「公園には女児がいたはずだ、どうなった?」

「甘粕さんの傍にいた女の子でしたら、耕一さんに関しての記憶を消しました」

「何?」

「ですから、甘粕さんに死を及ぼした犯人と死因は、謎のままです」

「余計な事を、したな」

僕は、自分のやった事から逃げるつもりはない。

「今は、余計な厄介事は避けるべきだと判断しました」

「そうか」

渚を責めるつもりもなかった。

警察にも根回ししているだろうから、謎のままという事になっているのだろう。

血痕などを考えれば、僕に辿り着くのも時間の問題になってしまう。
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