夜獣2-Paradise Lost-
再び、渚は僕の道を作った。

僕に、そこまで利用価値があるとでもいうのか?

本当に僕を利用して、自身の心を満たすだけなのか?

「葬式も行われたようです」

渚の声が考えを打ち切る。

疑念を抱いた妻は、夫を殺した犯人を捜す可能性もある。

人の執念は侮れない。

「アキラは?」

甘粕の攻撃によって、ダメージを受けたはずだ。

最大限の能力を使おうとしたために、失神を招いた。

「実際に会ってみてください」

僕と渚は、アキラの部屋に向って歩き続ける。

以前も、同じ道を歩いた。

「何故、言わない?」

扉の前に辿り着き、ノブに手をかけたところで渚に聞いた。

「言ったところで、今は状況を変えられないからです」

「状況が、変わらない?」

渚の言っている事が、アキラに異変が起きているかのように聞こえる。

「あなたの目で、確かめて下さい」

ノブを回して中に入ると、アキラはベッドの上で上半身を起こしていた。

見た目は何も変わらない。

しかし、何かが変わっている。

アキラは僕の顔を見て、不思議そうな顔をしている。

「えっと、こんにちわ」

アキラが、ご丁寧にも挨拶をする。

出会えば生意気な事を言う人間だったはずだ。

その行動は考えられない。

「それにしても、ホント今日は暑いねえ。ねえ、あなたもそう感じない?」

最初の挨拶から次の言葉で、アキラの身に何が起こったのかが、薄々感じられた。
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