夜獣2-Paradise Lost-
逃げ込んだ先は中庭にある大木の部屋。

「どうなった?」

身を隠して数分が経った。

息苦しさはなく、体の痛みすら回復している。

安定しているのか、3年前の体に戻ったように軽い。

「嘘だろ」

覚醒してしまったのか。

雪坂の介入によって、体の傷が治るのと同時に能力者になったか。

良かったと思えず、チャンスを潰してしまった。

「これが、答えとでもいうのか?」

夕子のない今を生きろと言っているのか。

「何故、望みどおりにならない?」

体の傷は治った。

だが、心の傷は治っていない。

悪しき記憶が蘇る。

『来世で会おう』

奴、乾が残した最後の台詞。

それが、僕の心を闇に引きずり込んでいく。

「来世、だと?」

憎しみが生まれ、頭がおかしくなりそうだ。

怒り任せで大木を拳や頭をぶつけてみたりしたが、気持ちは晴れない。

拳からは血が、頭からも血が流れている。

血を抜いたせいではないが、怒りの中に冷静が生まれた。

「簡単なことだ。能力を利用すれば良い」

自分が能力者であれば乾と対等に立て、憎しみを晴らす方法がある。

「報復しなくちゃならない」

鋭く尖った矛先は一つの方向を差している。

「来世といわず、現世で殺してやる」

頭から伝わる血を舐めると鉄の味がする。

久々に感じる感情。

「雪坂に感謝すべきだ」

憎悪の中、常識ではありえない言動だと気付いている。

仕向けたのは雪坂だ。

いや、見えなかっただけで、水面下で僕も望んでいたんだろう。

ただ、今はお互いの望む方向が違っている。

しかし、今の状態で能力は使えない。

自分を磨いて、見出すしかないようだ。

報復の準備を行うために、変化を遂げた空間から出た。
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