夜獣2-Paradise Lost-
今、目の前にいるのは、何も無いアキラだった。

「気のせいだ」

「そう言いながら汗かいてるように見えるけど?それより、あなた誰?」

やはり、思ったとおりだ。

「耕一」

「普通」

「そうだな」

つまらなさそうに、窓の外に視線を映した。

家族でなければ、扱いはこの程度だったのかもしれない。

「名前は、何ていう?」

「アキラって、聞いた」

自分の名前すら知らなかったのに、妙な落ち着きを持っていた。

「私、起きたら何も知らなかったんだ」

「そうか」

「ずっと、よくない夢を見てたような気もすんだよね」

「ああ」

「でも、何も知らないし、今が幸せかと言えばそうでもない」

姉が、寂しそうな顔を浮かべている。

「ホント、解んない」

再び、窓の外に視線を向ける途中、一筋の涙を流していたように見えた。

本当は、まだ混乱の中にいるのだろう。

今は言葉をかける事なく、僕は部屋を出る。

廊下には、渚が立っていた。

「神経へのダメージの他、心的ダメージも大きかったようです」

「記憶は、戻るのか?」

「一時的な物なのか、永久的に続く物なのか、今のところは」
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