夜獣2-Paradise Lost-
他人の演舞などに興味は持てず、自分が強くなればそれでいい。

師は他人の型にも良い部分が含まれるから見ておけと言うが、納得出来ない。

良い部分を見たところで何になる?

肉体の育成に役立つことは何もない。

健全な魂を宿らせて拳をのんびり打つつもりはない。

修羅となりて風をも切り裂く拳で頭蓋骨を砕く。

「毎日来るなんて、君はいつも熱心だね」

声をかけて、傍に立っていたのは師の内の一人だ。

「君の型は綺麗だから、皆は追い抜こうと必死だよ」

師は門下生達を見ながら、喝を飛ばしている。

「お好きなように」

他人が競争意識を持つのは勝手だ。

僕の妨げになるのなら砕く。

渚だろうが、アキラだろうが、乾への道を消すのなら全てを破壊する。

考える時間が惜しいと思い、胴着に着替えて走りこみに入る。

他の門下生はすでに終了しているので、僕一人が近所を走る。

青空の下、何も考えることなく暖まる程度の距離を完走した。

道場に戻ってくると組み手が行われている。

この道場は型だけではなく、組み手も積極的にやらせている。

しかし、走りこみが終わっただけで、次に型に入らなければならない。

気合を入れて声を出しながら、一発一発怒りを吐き出すように拳を放つ。

乾に届く拳はまだ遠い。

だけど、近づかせることは出来るんだ。

乾の顔面に一発、二発、それだけじゃ足りない。

陥没させるくらいの拳が欲しい。

溺れる程の力があれば勝てる。
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