夜獣2-Paradise Lost-
「はあ、はあ、5千!」

5千に到達した突きで違和感に襲われる。

水中を殴るような感触が拳の先にまとわり付く。

筋肉が疲れていると錯覚でも起こしているのか。

でも、今までは、疲れても不可思議な感覚に襲われたことはない。

拳に何もついてない。

「何が起こっている?」

型が終わり、突きの練習も終わった。

だが、不可思議な感覚が気になって、組み手を蔑ろにしてしまいそうになる。

後一発だけやって、何もなければ切り上げる。

能力者として、変調を見せているのかもしれない。

ならば、感覚を忘れてはならない。

最初の一歩を間違えれば、すべてが台無しになってしまう。

もう一度拳を握り締め、渾身の力を込めて一発放つ。

何かが変わるのなら僕は迷わずそれを選ぶ。

変化が欲しい。

変わらない未来を求めるより、変わる今が欲しい。

変われば少しは魔獣の門を開けられる。

自分の力を閉ざしてはならない。

許されるわけがない。

魔獣になるのなら、いくらでも手を貸す。

放った拳は何もない場所に届くと、勢いが返ってくるように拳が後ろに押された。

いきなりだったので、一歩下がる。

他人から見れば、遊んでいるかもしれない。

だけど、僕は欲した力を手に入れた。

この感覚は能力なのだろうけど、効果が分からない。

でも、きっかけは起こった。

この時、僕の頬が釣りあがっていたことに、誰も気付かなかったようだ。
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