夜獣2-Paradise Lost-
感覚を忘れないために何度か突きを出してみるが、能力は現れなかった。

「何度も使えないのか?」

考えてみたが解らず、突きに何時間も取れずに組み手に移る。

組み手の相手は師が決める。

心中で強者を希望する僕に、師は体格のいい男を選んだ。

「海江田君だ。素質があるから組み手もやりやすいよ」

初めて見る顔。

刺すような鋭い眼光で僕を睨んでいる。

相手が僕のことをどう思っていようが、僕には無関係だ。

乾以外は薄っぺらいベニヤ板にすぎない。

「君の噂は先生から聞いている」

右手で握手を求めてくるが、馴れ合うつもりはない。

だが、握手を無視すると無礼な行為になり、道場に立ち入り禁止になる可能性がある。

目的の妨げになるのであれば、形式に従っておくべきだ。

「よろしく」

一言だけを交わして、意思のない握手を交わす。

手は僕よりも大きく、拳の殴る部分の骨が削れていた。

毎日鍛錬を続ける海江田は真面目なのだろう。

真面目であるが故、形式に拘る。

数秒間の握手が終わり、距離を置いて組み手を始める。

僕は先ほどの技が出ないか、実践で試してみたかった。

相手は人間だが関係ない。

僕に関わった以上は砕けるまで付き合ってもらう。

海江田は運が悪かったと、諦めるしかないのだ。

「最初は軽く流すか」

ウォーミングアップのためなのだろうが、時間の無駄だ。

開花し始めなので、感覚を思い出すために全開で挑む。

本気でやらなければ眠っている魔獣は目覚めない。

今は、魔獣を叩き起こすことが最大の目的なのだ。
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