夜獣2-Paradise Lost-
左足を前に踏み込んで、上段蹴りを出す。

対応できるスピードなのか、軽く合わせて下段蹴りを軸足の左に当ててくる。

「ち!」

威力はあるが、耐えられないわけでもない。

能力が出現したのは突きであって蹴りではないことを思い出す。

蹴りから出現可能かわからない。

今は可能性の高い方を選んだ方がいいだろう。

距離を維持しながら、中段突きや上段突きを放っていく。

経験の差か。

見事にガードされながら、隙あらば相手の中段蹴りがボディーに決められる。

海江田という男は蹴りを得意としているのか。

先ほどから蹴りしか出していない。

威力の高いほうを選んでいるのかもしれない。

組み手とはいえ、僕ばかりが傷を負ってしまうことになる。

格好など選んでいられないが、どうすれば能力の発動が出来るのか。

考えている内に相手の拳が目前まで迫っている。

咄嗟に顔を振って右に避け、前のめりの姿勢で顔を狙って肘が直角に曲がった突きを出す。

カウンターで当たったが、態勢が整ってない状態で出した突きの効果は薄い。

海江田も分かっているらしく、避けなかったのだろう。

「考え事しながら稽古をやるなんて、やる気あるのか?」

「あんたよりはある」

僕は躓いている暇はないのだ。

「噂が聞いて呆れる」

海江田の話など聞く耳持たない。

「中身のない拳を打ったところで相手が倒れるわけがないだろう!不真面目な態度をとるなら帰れ!」

真面目なのはいい。

厳しいのもいい。

無駄話を続ける姿勢が気に入らない。

「あんたは打たれていれば良い」

「それなら、人形とでも組み手をすればいい!」

「動く的がないと稽古にならない」

能力の反応を見るためには人間でなくては役に立たない。
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