夜獣2-Paradise Lost-
「お前は嫌というほどしごいてやらんと理解出来ないようだな」

海江田は構えなおして本気になる。

今は組み手ではなく、どう倒すかの試合になっている。

「それでいい」

本気でなくてはこっちの気が引ける。

魔獣の部屋はすぐそこだ。

技を極めるのじゃない、能力を極めろ。

本気の中で出される能力にしか意味がない。

意味のないことを何度行っても、意味を持つことはない。

他の人間では駄目だ。

海江田のような憎しみに囚われた人間でないと、憎しみを放つことは出来ない。

憎悪を食らう魔獣は目覚めようとしている。

「また余所見か!」

海江田の大声に気付くと、2手ほど遅れて動いたため、脇腹に拳が決まっている。

「グ!」

痛みで顔が歪む。

体がくの字の僕の顔面に、立て続けに一発決める。

頭が後ろへのけぞり、鼻血が吹き荒れ体力が抜けていく。

勢いにのった海江田は二発、三発とボディーや顔面に拳を決めていく。

顔面がはれ上がって、前が見えない状況になった。

師も僕らの様子がおかしいと思ったのか、止めに入る。

「ストップストップ!海江田君、ちょっと下がって!」

「不真面目な奴は、こうでもしないとわからんのですよ」

構えを解くと、海江田に隙が出来る。

残念だが、僕はまだ終わっていない。

前へと踏み出す。

残心を忘れていた海江田が急いで腕を上げて防ぐ。

無意識であったのは確かだ。

透明であるはずの空気が、白く濁ったように見えた。

「そこだな」

海江田の顔面付近の白い濁りに、狙いを定めて渾身の拳を放つ。
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