夜獣2-Paradise Lost-
真夜中の帰り道を一人で歩いている。

辺りに人の気配がなく、現世には誰もいないように思える。

それは、僕の望んでいる世界ではない。

今すぐにでも乾を目の前に出して欲しい。

目覚めた能力で怒りをぶちまけてやりたい。

だが、まだ実現しない。

実現は、僕が完璧に近い存在となった時だ。

その時こそ、乾の寝首を掻く時だ。

春なのに、冷える風が身を包む。

火照った体が徐々にクールダウンしていく。

春風は入学式の夕子の顔を思い出させる。

脳裏に焼きついた笑顔。

しかし、景色は反転し、笑顔が赤に染まりバラバラに砕け散る。

「夕子」

狂いの中にいる僕を、夕子はどう思うのか。

きっと、顔を背けてしまうかもしれない。

破壊の鐘の音はそこまで来ている。

良くも悪くも、成長しているのは確かな話だ。

望みは果たさなければならない。

一種の夢に近い形で、実現させるための努力は惜しまない。

恋に熱される乙女のように求め続けるモノだ。

「恋か」

恋は何を与えてくれる?

メンタル面の強化か?

強靭なる肉体か?

気持ちの高揚を得る事が出来るだろう。

だが、報復には関係ない。

今は恋をする相手ではなく、力が欲しい。

負けることがない力こそ、追い続ける夢の形なのだ。

自分でもおかしいと理解している。

だが、魔獣は叫び続け、僕を突き動かしているんだ。

僕は、足の踏み入れてはならない魔界に入ってしまった。
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