夜獣2-Paradise Lost-
「耕一?」

静寂の世界を打ち破るように、女の声が後方から聞こえてくる。

懐かしさを帯びた声に振り向くと、3年会わなかった女がいる。

「アキラ」

スーツ姿のボーイッシュな顔を持つ姉は、険しい顔をしている。

再会の喜びはなく、知り合いが立っている程度にしか思えない。

「三年、どこにほっつき歩いていたのよ!」

怒気を孕んだ声を出し、目に涙を溜め込んでいる。

半信半疑のアキラが、心配のあまり近づいてくる。

だが、僕の拳はアキラの頬をかすって、後方に伸びている。

拳圧で髪が揺らめく。

「何よ、これ?」

冷たい視線で腕を睨みつける。

「僕に関わるな」

拳を引き、渚の家へ帰るために背を向けて歩き始める。

「意味わかんないこと言ってないで、ちゃんと説明なさい!」

ヒールの高い音を出しながら、近づいてくる。

アキラの手が僕の肩に置く。

「あんた、その目」

アキラの一言と同時に、顔を狙うために裏拳を出していた。

だが、拳は空を切っている。

アキラは手の届かない位置にバックステップで避けていた。

目は紅く変色している。

「今の本気?」

目に哀しみはなく、疑心が生まれている。

「僕は近づくなと言ったんだ」

家族の絆は必要ない。

家族が必要なのは人間だけだ。

「暇じゃない」

背を向けようとした瞬間に拳が目の前に迫っていた。

昔なら避けられずに当たっていただろう。

しかし、昔と今は違う。

重心を右斜め下に移して、アキラの拳を右手ではじいた。
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