夜獣2-Paradise Lost-
一応、確かめておきたかった僕は渚に連れられて廊下を進むこと数メートル、漆黒のドアの前に立ち止まる。

「この部屋でお休みになられてます」

「そうか」

今のアキラに対して拳を振り上げる気はしない。

トレーニング相手にはなるだろうが、同じ技ばかり付き合っている場合でもない。

それに、元からアキラに憎悪はない。

邪魔をしたから退けたというだけだ。

ノブが音を立て、私服姿に変わっているアキラがベッドの上で足を伸ばして座っている。

「あんた、いいところに住んでるわね」

「僕が所有している家じゃない」

思った通り異常はないらしい。

「お姉ちゃんも住もうかしら?」

「迷惑だよ」

「ひどい事言うわね。姉孝行しようと思わないの?」

アキラが住むのなら、色々と支障が出てくる。

毎日、苦言をされて、修行の邪魔になってしまう。

「悪いが、僕のことは見なかった事にしてくれ」

姉と出逢ったが、懐かしむつもりはなかった。

「本気で帰らないつもり?」

「僕にはやるべき事があるんだ。これから先、家族に会うつもりはない」

一生、会えるとは思っていない。

「父さんや母さん、悲しむわよ?」

「それでも、帰れない」

「あまり根を詰めると体を壊すわよ」

「この身が砕けようとも、辿り着かなければならない場所がある」

精神や肉体が壊れても、敗北だけはしてはならない。

「あんたは、もう成人なんだね」

「ああ」

「だったら、好きにすればいいわ。私からはとやかく言わない」

アキラは立ち上がると、傍にあったスーツを脇に抱える。
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