夜獣2-Paradise Lost-
「弟を、どうかよろしくお願いします」

渚に頭を下げて、アキラは部屋から出て行った。

アキラと今生の別れになるかもしれない。

だが、それがいい。

僕に関わる事は不幸に繋がるからだ。

「お別れは、言わなくてもいいんですか?」

渚は物足りなさそうな顔つきをしている。

「今ので十分だ」

三年間会わずにいたんだし、一度会っただけでは何も変わる事はない。

僕が乾に殺されたとしても、アキラや渚は今まで通りの生活を送っていくだけだ。

僕も、最初から割り切っている。

修羅道を選んでしまった以上は、家族の縁はない物と同じだ。

全てが終わったとしても、帰る場所はないだろう。

両親が優しさで残していたとしても、望んではいけない。

辿るは朱色に染まりし道。

破壊によって次なる道を開く。

「僕は目的を達成させるだけだ」

何かに繋がっていれば、弱みに繋がる。

「本当にいいのですか?」

渚はアキラの去った道を見つめている。

「渚は、僕が家族を切り離した事に反対するか?」

「あなたが望んだ道ですから、私は協力をするだけです」

「一族には優しいな」

渚がいなければ、きっと何も出来なかったかもしれない。

今の状況で渚を失う事は乾への道が大きく遠のく。

理由はわからないが、協力の意を示してくれている。

渚の気持ちがどうであれ、僕は最大限に利用させてもらうだけだ。

「今日はどのようにお過ごしになるんですか?」

海江田の件がある以上は、しばらく道場に行けないだろう。

だが、体を休める暇などなく、一日でも前進しておきたい。

「散歩してくる」

外界には何かあるのではないかという期待がある。

「渚はどうする?」

僕が部屋を出て行く前に、渚の予定が気になった。
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