夜獣2-Paradise Lost-
草むら付近で、気配に気付いた茶髪の男が立ち上がって姿を見せる。

目つきは悪く、誰かをナンパしそうな服装をしている。

「ああ?何か用か?」

「草むらが気になってね」

「さっさと去ね、ボケ」

「草むらに何があるか教えてくれるなら従うよ」

「なめとん?調子乗ってる?」

草むらを越えて、近づく。

茶髪が襟首を掴んだ瞬間に記憶が疾走する。

服を破かれた桜子、連れ去られていく夕子。

今にも起こっているように、眼前に映る。

「最悪の気分だ」

憎悪、狂気、怨恨が騒ぎ出す。

「キモ」

茶髪が拳を振るう前に、肩の付け根を狙って拳を放つ。

「が!」

痛みで怯んだ隙に下段蹴りをヒザに叩き込む。

防ぐ事の出来なかった茶髪の体勢が崩れ、顔が中段の位置まで下がる。

「お前等は、ただ歩いている相手にでも獣の如く襲い掛かる」

脇をしめて、中段突きを顔面に放つ。

茶髪は避ける術もなく、鈍い音と共に鼻から血を吹いて地面に倒れた。

意識はあるが、戦う意志は萎えただろう。

「他人の痛みが解らなければ、自ら痛みを味わえ」

腹部付近の白い空気を蹴ると、足は後ろに飛ばされたが茶髪の体躯も後方へと飛ぶ。

「まだ終わりじゃないんだろ?」

体勢を立て直して振り返ると、鼻ピアスにケツアゴの男二人が草むらから出ている。

「何するんじゃ、コラ?」

「ケツに手突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろか?」

「実力があるならすればいい。ただし、お前等がどんな傷を負っても、僕は助けを呼ばない」

僕は、獣二匹に拳を向けた。
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