夜獣2-Paradise Lost-
「眠りたいんだ」

「許しません」

雪坂が紅目へと変貌を遂げると、奴を思い出す。

嫌でも現世へと縛り付ける戒めとなった。

「死の淵から戻ってきたんです。現世でのやるべき事を放棄するなど、死んだ夕子さんへの冒涜行為です」

死んだ夕子の名前を出されると、心の奥の闇が浮上してくる。

「お前に」

「何もしなければ、夕子さんの死に対して償うことは出来ません」

「お前に何が分かるっていうんだ!」

掴んでいた肩の手を振り払い、雪坂を突き放すように押した。

強く押したせいか、後方へよろめく。

「夕子は戻ってこない!僕が好きだった夕子はいないんだ!償う必要も何もかもいらないんだ!」

「夕子さんに出来ることはたくさんあります。夕子さんが死んだ後に思うご家族のこと、妹さんのこと、その方達に対してやるべき事があるはずです」

押した部分が痛かったのか、雪坂は肩を摩っていた。

「言葉だけで救われるわけがない!」

「何もしなければ、救いようがありません」

「ふざけるな!僕の気持ちなんて分からないくせに平然と近づくな!」

「神崎さん」

「お前は好きな人が死んで生きていけるのか!?」

口から溜まった闇を吐き続けるが、止まらずに溢れかえってきている。

「生きていけます」

「簡単に言うな!」

「あなたの言いたいことはよく分かります。死にたくなる気持ちも分かります」

「言葉だけで慰めようなんてのも都合の良い話だ!」

「では、納得出来るように、心が癒されるまで慰めてあげます」

呆気に取られている間に、服を全て脱いだ雪坂がいる。
< 4 / 112 >

この作品をシェア

pagetop