夜獣2-Paradise Lost-
夕子の家族であっても関係のない話だ。

「桜子、どけ」

「ふざけんな!」

もう一度、ビンタを放とうとする。

しかし、体が反応して桜子の手首を掴んだ。

「平気で人を傷つけるような奴なんか死んじゃえばいいんだ!そうしたほうがお姉ちゃんも喜ぶわよ!」

桜子の怒りは収まらないらしい。

「うう、うええ、うわあああ!」

仕舞いには泣きじゃくる桜子。

その声は心にダメージを与える。

だが、涙をふき取る程の優しさは僕にはなかった。

「帰れ、ここはお前のいる世界じゃない」

一足踏み入れば、夕子と同じような末路を辿る事になる。

「嫌!嫌だ!納得するまで帰らない!」

「お前に言っておく、無駄な時間は使うな」

今は桜子に構っている時間はない。

復讐が僕を突き動かす。

「僕は行く」

「話は終わってない!」

桜子が僕の裾を掴もうとしたが、振り払って雪坂にいる位置へと飛ばす。

「お前の納得は必要ない。これ以上、邪魔をするなら容赦はしない」

桜子に睨みを入れて、僕は部屋を出ようとする。

だが、桜子は雪坂の抑止を振り払って、僕の服を掴もうとする。

「容赦しないと言ったはずだ」

紅眼となりて、桜子のどこに白い空気があるか確かめる。

「危ないです!」

突然、渚が走り出して、桜子を突き飛ばす。

拳に能力は込めてはいないが、突きはすでに放ってしまっていた。

「うぐ!」

気付けば渚の柔らかい腹部に拳がめり込んでいた。

「耕一さんの拳は女性に向けて放つものではないです」
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