夜獣2-Paradise Lost-
渚は悲痛な顔をしながらも、震えた声で気丈に振舞おうとしている。

「佐伯さん。お引取りください」

「何で、雪坂さんはそいつをかばおうとするのよ!」

「耕一さんは真っ直ぐな人だからです。これは私からのお願いです。今日は家に帰ってください」

桜子は泣いたまま、何も言わずに部屋から出て行った。

「は、は、はあ」

立っているのもやっとなのか、桜子が部屋から出て行くのと同時に腹を押さえて座り込む。

「僕を擁護する理由はなんだ?」

「耕一さんは自分の成すべきことをしてください。気を使う時間は無駄です」

「無駄かどうかは僕が決める」

「構う必要なんて、ないんです」

渚は僕の顔をみず、俯いたままだ。

「知った事か」

その場に蹲っている彼女を抱きかかえる。

「耕一、さん?」

「お前が理由を言わないのならそれでいい。僕の足に矢を刺したのも恨む気もない。これは僕のミスだ。例え前しか見えてなくても、それぐらいは理解出来る」

雪坂の部屋の位置は把握している。

僕は雪坂の部屋まで早足になりながら、運ぶ。

部屋の前まで到達して、急いで扉を開けた。

渚の部屋に入った事は一度もない。

あまり興味はなかったし、入る必要もなかったからだ。

渚の部屋は僕の部屋よりも幾分か大きく、机とベッド、大量の本を収納している本棚があった。

僕は雪坂をベッドの上にゆっくりと下ろす。

「救急箱はないのか?」

「ありがとう、ございます」

「余計な事は口にするな、答えろ」

「でも、大丈夫です。彼女が、いますから」

渚の視線を辿っていくと、僕の背後には女が立っていた。
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