夜獣2-Paradise Lost-
女は落ち着いた雰囲気を出しているが、茶髪が邪魔している感じがある。

そこから、僕の事を無視するかのように通り過ぎて、渚の傍に膝をつく。

「大丈夫?」

「すいません。お手数、かけます」

「渚はけが人、気にするな」

屋敷に住んでいるという事は内情を知っているのか。

次の瞬間、内情を知っている以上の出来事が起きる。

女は紅目に変化した後、渚に手を当て数秒が経つ。

すると、渚の辛さのある顔も徐々に引いていった。

「ありがとうございます」

「渚に世話になっているから、いい」

女達のやり取りを長々と眺める気はなく、部屋の中を見回していた。

落ち着いているという言葉が似合うのか。

視線を戻そうとした時、気になる物を見つけた。

「女の部屋をじろじろ嘗め回すように見るなんて、趣味が悪い」

「何?」

女の声で目の前の状況に意識が戻される。

女と僕との初対面でのお互いの評価は低い。

「相場さん、いいんです。耕一さん、何か気になる物がありましたか?」

渚も目ざとい奴だ。

僕の事を観察していたのか。

「あの写真は何だ?」

先ほど気になった物は、額縁に入った古ぼけた写真だった。

「これですか?」

渚はかかっている額縁をとって、僕に渡す。

写真の中には、二人の男女が写っている。

白黒で古くてよく見えないが、渚と見知らぬ男が傍に寄り添っている。

服装からいえば、時代は戦前、戦後のどちらかだろう。

「彼は、荒波の中、強く生きてました」

渚は男との思い出を静かに語る。
< 51 / 112 >

この作品をシェア

pagetop