夜獣2-Paradise Lost-
気のせいか、脈打つ血も速い。

「お前は渚を傷つけた。本当ならこんな事はやらない」

渚には聞こえない声で耳元で囁く。

相場は僕が渚に拳を与えたことは見えてないはずだ。

「覗きか、良い趣味を持っている」

僕も、釣られて自然と小声になっていた。

「今ならお前の状態を悪化させる事も出来る。いいか?お前は私の手中にある」

全身が敏感になっているのか、膨れ上がる殺気を感じる。

「復讐を邪魔するなら、手始めにお前を倒す」

態度の悪さは気にしないが、不利益な行動を取るのであれば女は敵だ。

「ふん」

相場は行動を起こす事なく、無愛想な顔で治療を続けた。

しばらくすると僕から離れ、ポケットからハンカチを取り出すと手を拭き始める。

相場が潔癖症かどうなのか知らないが、人前でやる行為じゃない。

「耕一さん、私はあなたが戦うことには正直、賛同できません。静かに暮らして欲しいです。でも、あなたの意志は固いんですね」

渚の顔は寂しそうな笑みを浮かべる。

「奴が生きている限りは、静寂に包まれた世界にはいられない」

海江田を使って高みの見物をしている乾を引きずり下ろさなければならない。

「奴に言い訳や弁解など必要ない」

今だ現れぬ傲慢な態度を取っている乾には地獄の底に落ちてもらうしかない。

「あなたの求める物が、闘いの先にあるのでしょうか?」

「その質問に答えるつもりはない」

確実に勝てる保証などどこにもない。

しかし、やらなければならないのだ。

胸にあるドロドロとしたモノが、僕を前へと突き動かす。

まずは、海江田を越える事から始めなければならない。

今のコンディションならば戦う事が出来る。
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