夜獣2-Paradise Lost-
道場前には海江田の単車がある。

「いるな」

風は止み、静かな空間が広がる。

道場の扉を開けると、海江田が稽古をしていた。

僕が入ってきた事に驚きの色が隠せず、露骨に嫌な顔をする。

「何故、怪我一つない?」

僕は質問に答える必要などない。

「理由なんかどうでもいい。お前に土の味を贈呈してやる」

「お前は負けたんだ。一日やそこらで覆せると思っているのか?」

「僕にはやらなければならない理由がある。そして、それを現実にする」

「戯言も大概にしないか?俺はお前と遊んでいる場合じゃない」

そういって、一人で型を始めた。

不穏な空気に包まれた道場。

門下生達は非常にやりにくそうだ。

「吐いてもらう」

紅目なり飛び出して、海江田の背後から拳を突き放つ。

しかし、海江田の前方は鏡になっており、良いタイミングで前転をして拳を避ける。

「お前!何をしているかわかっているのか!」

海江田は残心の構えを取っている。

「言っただろう?お前から乾の情報を得る」

二人の間には誰か入ろうとすれば、能力の餌食になる。

「おい、何をしている!ここは喧嘩道場じゃないんだぞ!」

先生の喝が飛ぶが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

「喧嘩じゃないですよ。これは雌雄を決する戦いだ」

僕も半身になって、構えを取り直す。

「懲りない男だ。直向な真剣さだけは勝ってやるが、もはや冗談で済まされない状況だぞ」
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