夜獣2-Paradise Lost-
不意打ちだとしても、卑怯だとしても、勝つしかない。

闇に染まった心には、正当な勝利だけが全てではない。

海江田はどんどん近づいてくる。

僕は前足に力を入れて、前へ出ようとする。

それだけならば、奴は簡単に僕の拳を見切ってしまうだろう。

だが、タイミングをずらす事が出来るなら。

人の踏み込みの速さを越える踏み込みが出来るのなら。

飛び出したのと同時に後ろ足で白の領域を押した。

低空を宙に浮きながら、前へと進む。

速さからすれば約二倍。

「む」

海江田は完全に虚を突かれていた。

拳で空気爆弾を撃つとでも思っているのか、待ってお前を倒すとでも思ったのか。

今は待つほど悠長な時間はない。

だが、奴を射抜く拳はまだ出さない。

勢いだけでタイミングをずらすのならば、避けられる可能性がある。

だからこそ、二段仕込みでタイミングをずらために足を地面に押し付ける。

「ぐ!」

勢いがあるだけ、足の裏の皮が剥がれる。

ダメージが蓄積された足にも負担がかかり、倒れそうになる。

だが、耐えぬかなければならない。

そして、海江田の間合い、僕の間合いで急停止する。

歯を食いしばり、腰を回転させて拳をアゴに向けて放つ。

避けきれないと判断したのか、海江田も遅れながらに拳を放つ。

「遅い!」

僕の拳が海江田の頬に当たった。

しかし、カウンター気味に海江田の拳も僕の頬を捉える。
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