夜獣2-Paradise Lost-
渚が僕の手を取る。

「もし、星の使者が地球を見つけて私を連れ帰ろうとした場合、私は帰るかもしれません」

「そうか」

「でも、千年以上も連絡が途絶えているのですからないと思います」

「お前は何が言いたい?」

「耕一さんが私の本名を仰ったので、星の事、自分の立場を思い出したんです」

「星が恋しいか?」

「長い間、離れてましたから、薄らとしか思い出せません」

渚は寂しげな顔を浮かべている。

「地球が第二の故郷であり離れたくない気持ちはあるんです。でも、自分の生まれた土地をもう一度見れるのなら見たい。それが本心かもしれません」

渚はいつの間にか、肌が密着する位置に存在している。

「あなたの気持ちは解っています。ですが、少し傍にいさせてもらってもよろしいですか?」

「ふん」

僕は答えなかった。

自分の置かれた立場。

僕の場合、渚の手助けがなければ復讐を成す事が出来ない能力者。

渚は一体、どんな立場だと言うのか。

星の使者がこれば星に帰る。

連れ帰るという事は、星にとっては重要な者だとでもいうのか。

今の僕には関係のない話だ。

帰るというのなら、帰ればいい。

それまで、利用させてもらうだけだ。

「ありがとうございます。また、日常を送れそうです」

笑顔になりながら渚が離れた。

しかし、身体の血流の巡りが早い。

風呂に時間を費やしすぎたのだろう。

時間の使いすぎはよろしくないと、僕は風呂から出た。
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