夜獣2-Paradise Lost-
夜の街まで三十分程かけて歩く。

町の光は人を安心させるために限りなく照らしていた。

それすらも、必要のない物ではないかと思う。

何故なら、明かりがろうとなかろうと、安心できる世界はどこにもないのだ。

一歩進めば、死はそこに待っている。

背筋に張り付きながら、隣り合わせで常に佇んでいる。

その中、街のどこを見ても、安穏とした顔の人間がいる。

生きている事に満足し、明日を生きようとしている。

それ故に、死に対して人一倍恐怖する。

「何も、解っちゃいない」

訴えたところで意味はない。

僕は、やるべき事をやるだけだ。

歩き続けたが、異変を感じはなかった。

しかし、僕は足を止める事となる。

街中でスーツ姿のアキラを発見したからだ。

それは、異変といえば異変だっただろうか。

スーツ姿の男と抱擁とキスを繰り返していた。

男の年齢はアキラよりも一回りほど違っているようにも見える。

背丈は女性の中では背の高いアキラよりも、頭一つ分違っている。

しばらくすると、男はタクシーに乗り、アキラと別れた。

アキラが誰と絡んでいようが、僕には関係のない話だ。

近づけば不幸になる。

背中を向けて離れようとした。

「あんた、耕一じゃない?」

背後に先ほどまで男と乳繰り合っていたアキラの気配を感じる。

アキラに声をかけられたからといって逃げる必要はなく、振り返る。

「随分と、仲のいい事だな」

「見てたの?」

「ああ」

アキラはリンゴのように顔を赤らめた。
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