夜獣2-Paradise Lost-
髪は乱れて、ベッドの上に広がる。

「何かあったのですか?」

見透かしているような視線が、僕を射る。

「何もない」

血が騒いだ。

風呂に入った時から、調子が狂い始めていたのかもしれない。

僕は渚の色香に吸い寄せられている。

蜘蛛の巣に捉われた蝶ようだ。

渚は笑顔になって、僕を抱きしめる。

僕は、渚の手の上で遊ばれているだけかもしれない。

「私は、あなたの傍にいますから」

逃げる事は出来ない。

元より逃げようとする意志はなかった。

他の能力者も同じ事をしたのだろうか。

解らない。

苛立ちを渚にぶつけようとする気持ちが勝っていた。

それから、僕は何をしたのかは語るまでもない。

渚は何も言わず、従う。

痛みを伴っても、彼女は微笑を浮かべていた。

しかし、悲しさを含んでいるかのように声を上げる。

気が遠くなるほど時を経て、形成された世界。

女は、何を見て、何を感じてきたのか。

解らない。

ただ、自分を犠牲にして、僕の世話をしている。

お前はそれでいいのか?

いつも抱いている渚に対して、少し違った思いを抱いた。

決して、夕子への思いを忘れたわけではなかった。

何故だ?

解らない。

身体を合わせたところで、何も得られる事はない。

ただ、苛立ちだけは薄まっていた。
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