夜獣2-Paradise Lost-
「お待たせいたしました」

渚の準備を終えて門前で待機していると、黒のリムジンではなく白の軽自動車だった。

車中から渚が出てきて、申し訳なさそうに頭を下げる。

僕は後部座席の扉を開け、車内に乗り込んだ。

おかしな事に、助手席に座っていたはずの渚が隣に座っている。

何かを言えば、色々と面倒な方向に向くはずだ。

僕が黙秘していると、車が唸りを上げて走り始めた。

運転しているのは渚に忠誠を誓っている相場だ。

車中では終始無言かと思われたが、渚が口を開いた。

「戦いの前に、朝食を取りましょう」

「必要はない。すぐ見つけ出す」

「昨晩のカロリー消費を考えれば、朝食を取らなければ満足な動きは取れません」

渚の朝食へかける意気込みは何なのか。

「いらないと言っているんだから、行かせてやれば良い」

相場が珍しく僕の言った事に同意している。

「最後に後悔して死ぬのは、そいつ」

渚との情事が気に入らなかったのか、殺意を感じさせる台詞を放つ。

「お前と殺りあってもいいんだぞ」

相場は何も答えない。

「単純なミスで倒れてしまう事は不本意でしょう?ですから、お願いします」

まただ。

深く、黒い瞳が僕を見ている。

「さっさと済ませるぞ」

「はい」

渚が、満足したかのような顔を見せる。

それ以降、誰も口を開く事はない。

移動は車。

昨晩よりも、二十分ほど早い時間に街へと到着した。
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