夜獣2-Paradise Lost-
「耕一さん、彼が能力者です」

「何?」

現れた男が能力者だとすれば、何の能力を所持しているのか。

それよりも驚いた事がある。

男には見覚えがあった。

スーツに中年、アキラの不倫相手だ。

「君は人の痛みを感じたことはあるか?」

話が通じない男に静かに語りかけた。

鉈男にとって、能力者である男も普通の人間としか思っていないのだろう。

能力者は鉈男の間合いに自ら入り込む。

チャンスと言わんばかりに、鉈を振り下ろす鉈男。

しかし、鉈が当たる前に能力者が内から外へと腕を振るう。

「ハハハハ!死んだ!死んだ!次だ、つぎいいいい!」

狂人と化した鉈男は獲物を狩るために移動しようとしたが、能力者は無傷だ。

「50点程度か。だが、上場だ」

「ひぎゃ」

鉈男が腕を振り回しているが、能力者を惨殺する事はない。

腕の先には、鉈が存在していない。

何故ならば、鉈が振り下ろされる前に道路へ転げ落ちたからだ。

腕も、鉈も。

鉈男の腕は鋭利な刃物で斬られたように、綺麗な斬り口を見せていた。

「斬り口は痛いかね?泣きたくなるほど苦しいかね?」

執拗な質問に答えられる余裕がない鉈男は、咆哮を上げてパニック状態に陥っている。

「答えてくれないのは残念だ。非常に残念だよ」

鉈男は次こそはと残った腕で鉈を拾おうとしている。

「ここで質問だ。君が鉈を取ると今後の生活に支障が出るか。YES OR NO、どっちかね?」

「ひぎゃああああ!」

奇声を上げて一撃を与えようとしたが、能力者には効果がなかった。

「正解はYES。それは、両腕がないせいだ」

何も掴む事が出来なくなっても鉈に頼ろうとしているが、意味を成さない。

「何を思って奇行に及んだのかはわからないが、君は街に居ていい人間ではない。それより、傷はどうかね?まだ痛むかね?」

能力者は無情にも、喚いている鉈男の腕を踏みつけた。
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