夜獣2-Paradise Lost-
「耕一」

桜子は手を伸ばそうとする。

「二度と、失わない」

力を入れて立ち上がり、混濁した意識をはっきりとさせた。

しかし、今の僕は立つ事がやっとで、渚を引き離す事が出来ない。

「耕一さん、桜子さんに拳を与えてもあなたは強くなりません。あなたは能力者を相手に、勝利を勝ち取る事で強くなるんでしょう?」

渚の冷静な物言いを聞いて、動きを止める。

「だとすれば、今やってる事は時間の無駄です。あなたは時間の無駄を嫌っている、そうじゃありませんか?」

「ああ、そうだったな」

僕は身体に入れていた力を抜いていく。

「あなたの強い能力者と闘いたいという望みは、近日叶います。必要の無い事は避けましょう」

渚は僕の脇の下に身体を入れて、体重の支えとなる。

桜子の差し出された手は、下がっていた。

「雪坂さん、耕一をたぶらかすのは、やめてよ」

先ほどとは違う、力のない声だった。

「すいません」

渚が一言謝り、僕達は桜子から遠ざかって行く。

「渚」

「はい?」

「すまない」

「耕一さんらしくないです」

僕らしくない。

渚の言う通りだ。

僕は、進むしかない。
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