夜獣2-Paradise Lost-
別れ際の雪坂の顔が頭に浮かぶ。

「何を、しろというんだ」

何を語っているのか。

考える事無く、一つだけ雪坂の気持ちが解った。

鬱陶しい程、死ぬなと言いたいんだろう。

「僕は、死にたいんだ」

雪坂を浮かべる行為は、体の意思に反した抵抗なのか。

死にたいと口に出しているのに、体は死にたくないのか。

それとも、雪坂の顔が浮かんだ事を言い訳にしているだけで、本当は死にたくないのか?

恐怖に負けているだけではないのか?

情けない。

僕は口だけの男だった。

しかし、放置しておけば、痛みの果てに死を迎えるだろう。

「自分の体も、終わるんだ」

「言ったでしょう、罪を償うのは現世なんです」

僕を見下ろす紅い瞳の雪坂。

彼女は、見たこともないような厳しい目つきをしている。

「逝く事は許しません」

「恐怖に怯えて死ねなかった。でも、逃げられないから、死ねるのは今しかないんだ」

「あなたは本当に苦しんでいません。だから、死に逃しません」

「何を、するつもりだ?」

前にしゃがみ、ゆっくりと頬に手を当てる。
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