夜獣2-Paradise Lost-
十七時。

時計の針は、そう告げている。

意識ははっきりとしており、身体に不調は無い。

甘粕と戦う時が来た。

起き上がり、動きやすいジャージを着込んで部屋を出る。

廊下を歩いている途中で、昼間と変わらない制服姿の渚に出会った。

「行くのですね」

「ああ」

「これを、食べてください」

白い皿の上には、二個のオニギリが置かれてある。

「お腹の足しにでもなればいいと思いまして」

一つずつに違う具が入っており、梅と昆布の二種類。

味は、誰が握っても同じような普通のオニギリだ。

そんなに大きくないので、時間がかからず完食した。

「帰ってくるまでにもっとおいしい物を、作っておきますから」

渚の表情は波風の立たない波のように緩やかだ。

「ああ」

渚の横を通り過ぎて、家から出る。

初夏であるからして日は落ちてはらず、燃え盛るような赤い世界を構築していた。

今の時間帯ならば、アキラと会うために街にいるはずだ。

ウォーミングアップもかねて、街の方まで走っていく。

街に辿り着いたのは、十七時十五分。

夕暮れの街には、買い物をしている主婦、学校帰りの学生がいるようだ。

その中で、歩きながらも甘粕史郎の姿を探る。

そして、徒歩でどこかに向っている甘粕の後姿を発見した。

今から闘う能力者を見つけたせいか、僕の中の狂気が蠢き始める。

奴を倒せと。

奴を喰らいて、糧にしろと。

体中に狂気の満ちた僕は、

獣になった。
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