夜獣2-Paradise Lost-
「あんた、甘粕さんに何やってんの!」

後ろから、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえてきた。

僕が何もしなければ、甘い一時でも送る予定だったのだろう。

「アキラか」

無理に動くと、二人に一瞬で再起不能にされかねない。

「アキラくん、君はとても苦労してきたようだね」

「すいません、弟が何かすごく迷惑かけたみたいで」

「元気のある子だとは思うがね」

「ただのバカです」

二人で話し合いながらも、甘粕は静かに足を進めている。

殺害しやすい状況を利用するのか。

しかし、背後にはアキラがいる。

アキラも斬るつもりか。

何故か。

アキラは、人の男に手を出す女。

癒されたからといって身体までも許してしまったとなれば、甘粕の言うところでは、『屑』に相当する。

しかし、大勢の居る前で僕とアキラを殺害すれば、甘粕は犯罪者として名を轟かせる事になる。

僕を裁けるというのなら、お構いなしか。

「今すぐ離せ」

「ざけんじゃない!甘粕さんに迷惑かけて!私の気持ち、知ってるでしょ!?」

僕に対して説教する事で、甘粕の事を見ていない。

甘粕の手は上段の構えを取っている。

「本当に、不幸な女だ」

両足を宙へと勢いよく上げ、甘粕の前にある白い空気を蹴る。

甘粕は後ろへと飛びのき、僕とアキラは空気の爆発の勢いで後方へと飛ぶように下がった。

背後にいた見物客にぶつかり、アキラの枷が外れる。

しかし、今の状態では厄介である事は間違いない。

町中にいる人間すべてが、甘粕の味方といってもいいのだ。
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