想うのはあなたひとり―彼岸花―


知ってるよ、神様に祝福されていないことくらい。
だから私、ちゃんと笑っていないもの。



でも気持ちだけが前にいく。
早く椿に会いたくてたまらない。
半年ぶりなのだから。
薬指にはめられたハートのリングを見る度、胸が弾む。

電車が揺れるせいじゃないよ?私の素直な気持ちなのだから。


2時間の一人旅はそんなにも苦痛ではなかった。
移り変わる景色を見ていたらあっという間。
少年院のある駅に着いたら、海が見えて解放感があった。

波の音がこんなにも心地がよいものだなんて知らなかった。

椿が教えてくれたのね、これも。




「妃菜子ちゃん!」




すると後ろからある人の声が聞こえた。
私はその声に驚く。
まさか知らない土地で名前を呼ばれるなんて想定外だったから。




「あ、保科(ほしな)さん」




私を呼んだのは事件当時、隣に座って警察署に一緒に行った新人刑事だった人。


保科哲平(ほしな てっぺい)ちなみに歳は25歳らしい。




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