想うのはあなたひとり―彼岸花―



椿のいる少年院は噂通り海沿いにあった。
車から降りると波風が私を包んだ。
その風は潮の匂いが混じっていて、海の中にいるような感覚になった。


皐の…部屋みたいに。




「妃菜子ちゃん、こっち」




駐車場から見える、コンクリートの建物。
まだ新しく改築されたのか、すごく綺麗な建物だった。
保科さんに言われるがまま、後を着いていく。
不気味なくらい静かな空間が、私の心臓の音を余計にうるさくさせた。



「この部屋で待ってて。椿くん呼んでくるから」




そう言って私を案内した部屋には“面会室1”と書かれていた。
奥の部屋は“面会室2”と書かれている。


ドアノブを持つ手が少し震える。
緊張しているのかな。
そりゃそうだよね。


椿に会えるのは楽しみなのに、どこか怖いの。



面会室は6畳ほどだった。
向かい合った椅子に、遮断された壁。
テレビドラマで見たことのある、予想通りの部屋だった。




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