想うのはあなたひとり―彼岸花―
私は椅子に座って、鞄の中から鏡を取り出す。
最終チェックだ。
久しぶりに私を見て椿はなんて思うかな。
少し乱れた前髪を直して小さく笑ってみる。
椿の前では少しでも笑顔でいたい。
神様は私が笑うたびに悲しくなるかもしれないけど、そんなの関係ないから。
部屋にある時計を見ると、10時を過ぎていた。
昼から学校に行けばいい。
皐と気まずいし、丁度いいから。
「はぁ…」
ため息を吐いたら、ガラスの壁がちょっとだけ曇った。
そこまでため息がいっていたのか。
ため息の意味は?なんて考えていたら、部屋のドアが開いた。
「お待たせ、椿くん呼んできたよ。面会時間は30分ね。僕は監視官として後ろにいるけど、自由に話してくれていいからね。椿くん…入って?」
ついにきた。この時が…。
ついに、あなたと……。
「妃菜子…久しぶりだね」
久しぶりに見たあなたは、あの時と何も変わっていなかった。
あなたを見た瞬間、あなたに触れたくて、思わず立ち上がってしまったの。
少しでも、あなたに触れたくて。