想うのはあなたひとり―彼岸花―
…面会時間30分はあっという間だった。
部屋から去っていく椿が私の心に今でも残っている。
「またね」と言って笑った彼の姿が切なくさせた。
手を伸ばせば届きそうな距離なのにそれができなくて悔しい。
“また”会いに来るから。
少年院を出て、空を見上げる。その色は引き続き濁ったまま。神様が絵描きをしていて絵の具を洗った水を溢したよう。
ほら、水入れって明るい色を入れてもどんどん濁っていくでしょ?
そんな…気持ちの悪い色。
「椿…元気で良かった。安心しました。来て良かったです」
空から視線をずらして保科さんに言う私。
「椿くんの元気な姿、久しぶりに見たよ。また来てね。」
保科さんを見て小さく笑い、私はあるものを見つけた。
それは花壇に植えられた、ピンク色の花。
「これって…?」
そう言って下向きに咲く花を触る。
「つばきっていう花だよ。これね、甘い蜜があるんだ」
脳裏に皐が浮かぶ。
私にできることは…椿が私にしてくれていたことだった。