想うのはあなたひとり―彼岸花―



知らない世界を教えてくれたのは…あなただった。

人は温かいと。
涙は温かいと。




「あ、皐だ。すげぇめんどくさそうに歩いてる」



そう言って弘樹は窓からグラウンドを見下ろした。
それにつられて小絵も見下ろす。


私は…できない。
だって皐とは他人だから。
ただ椿に顔が似ているだけで、皐の過去に私に似ている人がいるってだけ。
何の接点もないから。


鞄を机に掛けて、来る前にコンビニで買った烏龍茶を口に含んだ。




「さっつきー!早くおいで!」


大袈裟なくらい手を振る小絵を私は一瞬でも“羨ましい”と思った。


あんなに素直だったら…久しぶりに会えた椿を見て涙を流すはずだろう。
でも私から涙は出なかった。


椿の後ろに浮かんだ皐の残像が泣きそうだったから、私は我慢したのかもしれない。



もう少し素直だったら…
私はあの遮られた壁をぶち壊したのに。




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