想うのはあなたひとり―彼岸花―
だんだんと鼓動がうるさくなっていく。
別に私は悪いことしてないから堂々としていればいいのだけど…手に汗が滲む。
「皐遅いよー何してたの?」
「あー寝てた。起きたらさっきみたいな。」
笑いながらこう皐は言う。
近づいてくる足音。
鼓動はさらに速くなる。
「…妃菜子?」
皐が私の名前を呼んだ瞬間、息が止まりそうになった。
昨日のこと忘れたの?
まさかね。関わるなって言ったのは皐よ?
「やっぱりなぁ…」
この時、弘樹がぼそっとこう呟いた。
そして世界が移り変わる。
突然、皐は私の腕を掴み引っ張った。
「…え…」
それはまるで風のようで。
皐に羽が生えて大空を飛んでいくような…。
「ちょっと…!!皐!!」
遠くから聞こえる小絵さんの声。
私の手を引っ張り、走る皐の後ろ姿を黙って見ていることしかできなかった。