想うのはあなたひとり―彼岸花―
「もしかして皐知っているんじゃない?保科さんのこと」
「覚えてないな…。俺、人の顔すぐ忘れちゃうんだよね」
こう笑いながら言った皐。
ちょっとは元気になったかな?
もう離ればなれになってしまった手と手だけど、肩は軽く触れている。
皐の体は温かい。
私の体は温かいかな。
もしかして冷めてるかもしれない。
ねぇ、一度離してしまった手をまた繋ぎたいと思ってしまう私は罪ですか。
「妃菜子ちゃん、皐くん。お待たせ、例のあれあったよ」
ひらひらと手を振りながら満面な笑みを浮かべた保科さんが帰ってきた。
その表情を見た私たちは立ち上がり笑みを溢す。
「これ…だよね?部長に聞いたらすぐ渡してくれたよ。なんかずっと持ってたみたい。良かったね」
渡された一枚の手紙。
厚さは持った感触からして、一、二枚くらいだろう。
でもやっと皐のもとに戻ってきたと思うと天国で奈月さんが笑っているように感じた。