想うのはあなたひとり―彼岸花―
警察署から出ていく。
外は日差しが照っていた。
春だからといって紫外線がないわけではない。
日向を歩くのは少し抵抗があるが皐が道の真ん中を歩くものだから私もそれに合わした。
「また会いに来てねって誰のこと?妃菜子の知り合い?」
やっぱりね、思っちゃったか。生唾をごくんと飲んで私は冷静さを保つ。
ここで「恋人の椿」と答えたら過去のことを聞かれそうで嫌だった。
だから私は嘘をついたのだ。
醜く汚い嘘を。
「…お…お母さん…。ちょっといろいろあって今は警察署にいるの」
…嘘だよ。
私のお母さんは死んだの。
彼岸花のように赤く染まって。
「ふーん、そうなんだ。ごめん…変なこと聞いて…」
申し訳なさそうな表情を見せる皐に余計苦しくなった。
嘘を信じた皐に後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
私は…皐に嘘ばかりついていたの。