想うのはあなたひとり―彼岸花―


そんなことももう過去なんだ。隣にいる皐を見ながら現実に戻ってきた私。



この街は、椿との思い出で溢れている。
癒えない傷がある私にはまだ少し辛いかもしれない。
椿を失ったことが私の癒えない一生の傷なのだから。



「俺さ、まだ不思議なんだよね。ここに奈月が残した最期のものがあるってこと」



手紙を見つめながら皐は言う。確かにそうかもしれない。
一年以上前のロッカーに隠されていた手紙がまさかまだ残っていたなんて。
本人でない私までも驚いてしまった。



「これは全部妃菜子のおかげだと思うんだ。だからまたお願い聞いて欲しい」




「…なに?」




「この手紙、妃菜子が読んでくれないか?声をだして。そうしたら…素直に受け止められる気がするんだ。奈月の気持ちを」



小さく笑う皐に、私は力強く頷いた。
私にできることがあるならやるよ。



太陽が照らす中、私たちは河川敷で肩を並べながら座る。



渡された手紙をゆっくりと開けて便箋を取り出す。







“皐へ”







奈月さん、私が読むのはふさわしくないかもしれないけど、でもあなたの気持ちをちゃんと皐に伝えるから。



天国で笑っていてください。




そして皐に明るい未来を照らしてください。





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